去る7月8日、当センター・朝鮮文化研究室主催による書評研究会、〈詩「雨の降る品川駅」を読み直す――廣瀬陽一 著 『中野重治と朝鮮問題 連帯の神話を超えて』(青弓社、2021)とともに〉が、対面とオンラインのハイブリッド開催にて、43名の参加のもと行われました。
(*諸事情により、セミクローズド方式にて、朝鮮大学校教職員学生およびコメンテーター関係者のみへの告知で行われました。)
 
『中野重治と朝鮮問題 連帯の神話を超えて』(青弓社、2021/https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787292643/ )の著者である廣瀬陽一さん(大阪公立大学客員研究員・非常勤講師)を直接会場にお招きし、李英哲さん(朝鮮大学校外国語学部・日本語文学)、康成銀さん(朝鮮問題研究センター研究顧問・朝鮮近代史)、伊藤龍哉さん(HOWS [本郷文化フォーラム・ワーカーズスクール]、『思想運動』編集部)の三名による書評コメントがありました。
 
朝鮮と日本のプロレタリアートの連帯と友情をうたった、中野重治の詩「雨の降る品川駅」。朝鮮学校教科書に収録され続けているこの詩を中心に、戦前戦後にかけた、さらに現在にいたる、朝・日プロレタリア国際主義の「連帯」の実相、「民族」と「階級」をめぐる、問題点と可能性について、話題の近著『中野重治と朝鮮問題』に対する評者たちの力のこもったコメントが行われました。
 
まず司会進行兼評者の李英哲さんより同著序章にまとめられた中野重治と朝鮮問題、とりわけその中心となる「雨の降る品川駅」の改作・研究評価史についておさらいした後、伊藤さんからは中野の戦前の転向問題との関連から、中野の思想の発展過程および詩の問題点に対する中野自身の反省を掘り下げた問題提起がなされました。
 
康さんからは、①戦前戦後にかけた朝・日の民族的連帯における朝鮮人側の主体性について、朝鮮民主主義人民共和国側の立場、在日朝鮮人共産主義者の立場、日本共産党の朝鮮人路線方針からそれぞれ検証、②レーニンの民族自決論とプロレタリア国際主義の実相を1920~30年代の歴史から検証、③朝・日の国際的連帯運動の総括、という3点からコメントがありました。
 
李さんからは、同著が高く評価するサンフランシスコ講和条約/日米安保条約以後の、中野の「植民地」認識、「被圧迫民族(の文学)」認識を再度問い直す視点から問題提起がなされ、戦後直後の中野の朝鮮人認識および表象(創作)レベルにおける諸問題が指摘されました。これらのコメントを受け、著者の廣瀬陽一さんからリプライがありました。日本の思想転向問題および金達寿の作品との出会いから中野重治と朝鮮問題というテーマに取り組まれた経緯、これまで総合的に体系化されてこなかったこのテーマのさまざまな意義や課題について述べられました。